RSウイルスに対する 母児免疫ワクチンについて ~赤ちゃんへの贈り物~
2025.04.01
RSウイルス(Respiratory syncytial virus)は呼吸器合胞体ウイルスとも呼ばれ、呼吸器に感染するウイルスでA型とB型の二種類が存在します。
このウイルスには2歳までにほぼ100%の乳幼児が一度は感染するといわれています。
日本あるいは世界において毎年RSウイルスの流行がみられ、生後6か月未満の乳児の主な死亡原因の一つとなっています。
日本におけるRSウイルス感染は一年中みられます。流行のピークは新型コロナウイルスの流行以前においては9月に迎えることが多かったのですが、新型コロナウイルスの流行以降はその傾向が変化しています。
RSウイルスに感染した新生児を含む乳幼児は、70%は軽症であり、いわゆる軽い風邪症状(発熱、鼻水)のみで快方に向かいますが、30%の乳幼児においては細気管支炎や肺炎といった、いわゆる下気道呼吸器疾患を発症して重症化するといわれています。特に生後2~3か月にRSウイルスが関連した重症の呼吸器疾患が多くなるといわれています。
これら重症化した乳幼児の多くは入院を余儀なくされ、ある報告によると人工呼吸器装着は入院した乳幼児の3%に必要であったとされています。もし出生後早期のRSウイルス感染を防ぐことができれば、理論的には重症の下気道呼吸器疾患で苦しむ乳幼児を減らすことができるはずです。
このような考えから、ファイザー社が開発した母児免疫ワクチンの有効性を確認するためのマティス試験という治験が2020年から始まり、日本からも462名の妊婦さんが参加され、我々の施設においても37名の妊婦さんに参加していただきました。
母児免疫ワクチンとは、妊娠28週から36週の妊婦さんにRSウイルス(A型B型双方)に対するワクチンを接種し、お母さんの体の中で作られたウイルスに対する抗体が、胎盤を通じて赤ちゃんに届けられるというものです。
マティス試験の結果によると、母児免疫ワクチンは生後3か月目までに起こった重症下気道炎を約80%抑制することに成功しました。また、その効果は6か月目まで継続していたことが確認されたのです。さらに病院を受診しなければならなかった下気道疾患の病児についても生後3か月までに約60%抑制することに成功しました。
ワクチンの安全性についてもこの試験において検証されており、注射部位における腫れや痛みはワクチン接種者で多くみられたものの、その他の有害事象(ワクチン接種後にみられた様々な異常)はワクチンを接種していない人たちと同じ割合であり、ワクチンの安全性が示されました。
これらの結果を踏まえて、2024年5月にこのRSウイルスに対する母児免疫ワクチンは「アブリスボ」という商品名で発売されました。現在はまだ自費接種ですが、乳幼児に接種するRSウイルスワクチン製剤に比べると極めて安価であり、今後このワクチンが広がり、RSウイルス感染で苦しむ乳幼児を減らすことができれば将来的に公費による定期接種への道も開けてくるものと考えられます。
大切なあなたのお子さんに対する「最初の贈り物」として是非RSウイルス母体免疫ワクチンをご検討ください。
(Y・H記)